無意識を扱う心理療法的な音楽療法

深層心理的音楽療法
(英)Depth Psychological Music Therapy
(独)Tiefenpsychologische Musiktherapie (深層心理的音楽療法)、Tiefenpsychologisch orientierte Musiktherapie(深層心理指向の音楽療法)とは、無意識を扱う心理療法的な音楽療法のことです。

この療法は、音楽を通じて無意識的な感情や心理状態を引き出し、その人らしい生き方の支援や問題の解決に向けたアプローチを行います。
こうした深層心理を扱う音楽療法の代表的なアプローチのひとつに分析的音楽療法(Analytical Music Therapy)があります。精神分析の創始者のフロイト理論と即興音楽を融合してこのアプローチを創り出したのは、イギリスの音楽療法士プリストリーでした。プリストリーはバイオリニストでしたが、彼女が用いた音楽は、演奏技巧重視の西洋クラシック音楽ではなく、自由即興演奏でした。

精神分析では、クライアントが心に浮かんだことを何でも話してゆく〈自由連想〉という手法が使われますが、自由即興演奏はこの自由連想法に似ており、音という非言語のチャンネルを通した偶発的な発露を可能にすることで、クライアントの心の無意識世界への橋渡しの役割を果たすと考えられたのです。

分析的音楽療法士になる訓練の過程には、自分自身がクライアントとしてこのアプローチによるセラピーを受けることが含まれており、これによってセラピストは自分自身の心について深く探求し、セラピーのプロセスを内側から理解することになります。セラピストが訓練の一部として受けるこのような自己分析セラピーは〈教育分析〉・〈訓練分析〉などと呼ばれ、もともと精神分析家が分析家になる訓練として伝統的に行われて来たものですが、分析的音楽療法のセラピスト訓練においてもこうした伝統が取り入れられているのです。

この音楽療法は、国籍や年齢、音楽経験の有無などに関係なく、どんな人でも受けることができます。また、欧州ではさまざまなクライアントに深層心理学的なアプローチを応用した治療法が提供されています。日本でも今後はより多くの専門家がこのメソッドに取り組むことで、深層心理学的音楽療法が広まっていくことが期待されています。